調教師を目指して

人も馬も、ハッピーで
フレッシュな厩舎を作りたい。

24年度の新規調教師免許試験合格者としてJRA初の女性調教師となった前川恭子さん。
調教師試験を受ける直前である、23年10月に行ったスペシャルインタビューの内容をご紹介します。

インタビュー動画
前川 恭子

前川 恭子

KYOKO MAEKAWA

1977(昭和52)年4月9日生まれ。
千葉県富里市出身。11歳から乗馬を始める。筑波大を卒業し、北海道浦河町のビクトリーホースランチ勤務を経て2003年7月にJRA競馬学校厩務員課程入学。 同年10月に崎山博樹厩舎で厩務員、04年2月から調教助手。崎山調教師の逝去に伴い18年11月から田所秀孝厩舎、19年3月から坂口智康厩舎に所属。家族は夫と長女。

女性でも男性でも馬よりは力が弱い<br>女性だからといって、できない仕事ではない。

1日のはじまりは馬房の掃除から。

JRA厩舎スタッフを目指したきっかけは?

もともと馬がたくさんいるところで育ったので、馬にはなじみがありました。小学校5年生から乗馬を始めて大学の馬術部までずっと乗馬をしてたんですが、その時に美浦のトレーニングセンターにアルバイトに行って、こういう世界があるんだなって知りました。何か楽しそうだな、ずっと馬に関わっていきたいなと思って、この仕事に就こうって決めました。

初めて美浦で競走馬を見たときの印象は?

やっぱり勢いを感じましたね。パワーというかエネルギーを感じました。それに乗馬と比べて反応が新鮮でかわいかったので、すごい魅力的に感じました。乗馬って大人しいんで、ボーっとしてるんですけど、競走馬は耳もピクピクしたり、目もパッと大きく開いたり、キラキラしていて凄くかわいいです。

普段の仕事内容は?

まず朝厩舎に行ったら体温とか、足元とか、馬体に異常がないかをチェックして、馬体の手入れをしてから、鞍や頭絡をつける馬装ということをします。私は厩務員なので、攻め専と呼ばれる調教助手さんが乗っていってくれるんですね。帰ってきたらその馬を受け取って、上がり運動と言って厩舎の周りを常歩で運動させて、その後にその馬をシャワーで洗うという形です。その後に飼葉をあげて、その日午前中は終了になります。また午後からは馬体のチェックをして脚を冷やしたり、レーザーを当てたり、物理療法で体のケアをして、それでまたご飯をあげて終了という感じです。

土日は競馬場で、どんなお仕事を?

馬をピカピカに手入れして、きっちりと馬装をしてパドックを周回させて、お客様に馬を見ていただくってことですね。ジョッキーを乗せて、離すまで私たちの仕事になります。その後は競馬を見て無事を祈って待つという感じです。

パドックの空気感は?

もう慣れたので、特に今はあんまり感じないんですけれども、やっぱり大きいレースの日は、とてもお客様がたくさん来てくださってるんで、やはり緊張感というか、引き締まる気持ちになりますね。

仕事をする上で大変なことは?

一番大変に感じるのは、やっぱり朝が早いことですね。特に夏になると昼間が暑いので結構早い時間から調教します。でも昼休みはその分長いので、例えば美容院に行ったり、歯医者さん行ったり、お買い物したりとかに使えますので、空いている時に色んなことができていい面もあると思います。

厩舎スタッフになってから調教試験を目指すまでのキャリアプランは?

もともと調教師になりたくてこの世界に入りました。元々競馬ファンっていうわけじゃなくて馬が好きだったので、もし自分が調教師になったら引退した馬とかを、もう一回乗馬にトレーニングし直して、知り合いにも乗馬クラブに勤めてる方とかいましたので、そうしたら引退後の馬が活きる道ができるんじゃないかなって、20年前ぐらいには思っていました。トレセンに入ってからは、ちょっと忙しかったりとかで、なかなか受験はしなかったんですが。そのうちに、角居先生という凄い調教師の方が引退馬の今後を考える活動をされたので、それはいいなって思っていました。しばらくして、海外研修っていうのがあって、みんなでイギリス、アイルランド、フランスの競馬場とか、厩舎を回って、どんな感じで仕事しているのか勉強しに行くことがあり、その時にイギリスにロジャーヴァリアンさんっていう調教師がいらして、その方の奥さまが日本人なんですが、その方とこういうことで調教師を目指していたけど受けてないみたいな話をしたら、「なんで?受けたらいいじゃん」って。受けられる立場にいるんだから受けたらいいじゃんって勧めてもらって、そんなに深刻に考えないでチャレンジしてみてもいいのかなって思って、それでチャレンジし始めました。今は色々と自分なりに、もっと強い目標を持って調教師を目指してます。馬ってやっぱりアスリートなので、ハードなトレーニングをするので、どこかに負担がかかっておかしくなる時とかってあるんですよね。そういうのが積み重なっていくと本当に故障に繋がったりしてしまうんですけれども、それを早いタイミングで、自分の権限でケアして、今より馬を健康に走らせて能力を出してもらいたい、楽しく走ってもらいたい、という気持ちで調教師を目指しています。

先輩スタッフへ相談したり、手入れや飼葉(エサ)付けをする。

調教師の責任や覚悟とは?

馬主さんから高価な馬をお預かりしてるんで、その分でも私達とは責任が違うんですけれども、何かあったら調教師の責任ですし。それに競馬っていうのはやはり公正さ、フェアさっていうのが凄く求められているので、その点でも凄く大きな責任を負っているんですね。従業員に対しても馬がいい状態で出走できることに関しても、そういった責任を持っているので、従業員ももちろんそういった気持ちでは仕事しているんですけれども、やはり責任の大きさは変わってくるのかなとは思います。もちろん調教師は従業員みんなの生活も背負ってますので、なるべくいい競馬をして、みんなで稼げるようにするっていう責任もあります。

坂口智康厩舎の雰囲気は?

みんなスタッフ同士仲良くって、自分の担当馬だけでなくて、他の人の馬を手入れしたり、ちょっと忙しそうにしてる人がいたら、やっとくわって言ってさっとできるような感じの凄い人ばかりの厩舎なんですね。やっぱりコミュニケーションって大事だなって思ってます。馬がちょっと変だなって思った時なんかには、みんなでちょっと見てみてって言って、どうした方がいいこうした方がいいっていうのは凄くしている方だと思います。

担当馬の思い出は?

今の厩舎の前は、崎山厩舎っていうところで持ち乗り調教助手として働いましたが、その時に担当していた馬でウエスタンダンサーっていう京阪杯っていう短距離の重賞を勝ってくれた馬がいるんですけど、その子はもちろん能力もあって凄く乗りやすくて賢い馬で可愛かったんですけど、少しだけ歩様が悪くて、ぎこちないところがあって、もともと競走馬になれるかも怪しいという話もあったんです。頑張って走ってくれてはいたし、当時、凄く自分なりに頑張ってケアしてたんですが、それから15年ぐらいたって色んなことが分かってきたら、もっと色々できたことがあったんじゃないかなっていう風に思うこともあるので、それが思い出の馬というか、ちょっと反省も含めて思い出の馬ですね。そうやって昔担当してた馬が色々教えてくれることもあると思うので、それを活かしていけたらなって思ってます。

今後のキャリアプランは?

やっぱり調教師試験に合格して、みんながハッピーになる厩舎を作りたいと思っていて、先程ちょっと馬の異常にいち早く気付いてケアしてあげたいって話をしたんですけれども、それってスタッフの働きやすさと関係してると思います。スタッフが上手にコミュニケーションして調教師にも何でも言える関係で、それにお休みとかも十分に取れて疲れてない状態の方が馬をそういう目で見られる余裕もあると思いますし、人も馬もハッピーでフレッシュな厩舎っていうのを作りたいなっていうのが目標です。

この業界を目指す女性にアドバイス

競馬学校に入る前にアイルランドの厩舎で少しだけ働いたことがあって、その時って半分以上女性だったんです。全然馬に乗るにしても馬を扱うにしても別に女性だから力が必要だとかもないですし、男性でも女性でも馬よりはみんな力が弱いので、女性だからってもし躊躇してらっしゃる方がいたら全然大丈夫だよってことは言ってあげたいです。それに、女性だと結婚して出産したらとか、心配になることもあるんじゃないかなって思うんですけど、別に産休ももちろん取れますし、私みたいに預かってくれるご家族がいない方でも子育てをしたりして、また復職するってこともできます。なのでお子さんを持つことも可能ですし、自分の人生のプランがあったとしたら、全然両立できることだと思います。馬はとってもかわいいので是非、どんどん入ってきていただけたらなって思ってます。

仕事で普段心がけていることは?

馬に接する時だったら動揺しないことですね。馬がバタバタと暴れたりすると、ワーってなったりするんですけど、馬ってどっしりしてる人のことをリーダーだと思って信用してくれるので、自分がどっしりしてたら「大丈夫か。」と思って落ち着いてくれるので、とにかくこちらが落ち着くことですね。

あなたにとってJRA厩舎スタッフの仕事とは?

大きい意味で言えば、競馬自体は国にお金が入って、馬だけじゃなくて畜産や社会福祉にも貢献している事業ではあるんですね。その一員だということを考えたら、とても責任もあるし、誇りもある仕事なんですけれども、すごくミクロの視点で見ると本当に馬が可愛いくて、すごく魅力的な仕事だと思います。毎日見ていても飽きないので。馬のかわいさって。本当にオススメです。

JRA厩舎スタッフを目指す方にメッセージ

これから自分の人生何をしようかなって決める時ってすごく不安や迷いがあると思いますし、競走馬の仕事って、自分にできるかな、危ないんじゃないかなとか、不安もあると思うんですが、意外と大丈夫です。競走馬って牧場できっちり扱われていて、しつけもできていますし、イメージほど危なくないのかなっていうのもありますので、ぜひチャレンジしてみていただきたいと思います。JRA厩舎スタッフの仕事はとてもやりがいがある仕事ですし、馬も本当に可愛いので、もし迷ってらっしゃる方がいたら、是非チャレンジしていただきたいと思ってます。お待ちしてます。